今日もバルコに流れる時間
「コインランドリーでこんな光景、見ると思わなかったよ」 打合せの相手は、その日、数時間前にバルコを訪問したときの光景を、目を丸くしながら話してくれた。
代々木上原店の景色
小田急線の東北沢駅の改札を出ると、国内最大のモスク「東京ジャーミィ」と新宿のビル群が連なって見える。晴れた日はグレーのモスクのシルエットが青い空に映えて、ほんのすこし、外国にきたような気分に もなれる。そのまま東大駒場キャンパスに向かう道を少し下ったところにBaluko Laundry Place 代々木上原がある。
打ちっぱなしのコンクリートがそのまま内装になった店舗の壁際に、シルバーのマシンが一列に並ぶ。午前中は、乾燥機の扉に色とりどりのランドリーバッグがぶら下がり、縁側のように作られたテラス席ではコーヒーとドーナツを楽しむ人もいる。大きな窓からたくさん光が入るからか、不思議と無機質な感じはしない。
コインランドリーとカフェ、クリーニング、それから洗濯代行までひとつになった代々木上原店は、地域のお客さまにサービスを提供するだけでなく、バルコの「旗艦店」として、バルコが目指す価値提供の実験室(ラボ)にもなっている。だからバルコの事業に協力してくださる企業の方が「見学」に来られることも多い。
その日、バルコが関わらせて頂いている北海道小清水町新庁舎プロジェクトの担当者、石丸さんも、打合せの前にバルコを「見学」してきてくれていたのだ。
「僕ね、さっき上原店でお茶してきたのよ。ふと隣を見たらさ、テーブルで小学生ぐらいの女の子が宿題をやっているの。お母さんは本を読みながら宿題を見てあげてるのね。それがすごく自然な感じで、まるで自宅のリビングに居るみたいなんだよ。」
石丸さんは目を丸くしたまま続ける。
「『お出かけ』ってわけでもなく、本当に洗濯しながらリビングで過ごしています、という感じなんだよ。バルコのコインランドリーってこういうことなのか、って。これがうちの町にできたら、すごいことだよ」
話を聞く私の目にも、二人 の姿が浮かんだ。夕日が差し込む代々木上原店のカフェで、洗濯しながら二人の時間をゆっくり過ごし、きれいに洗い上がったシーツを持って帰る。
隣の洗濯機ではまた別の家族の洗濯物が回り、カウンター席ではバソコンに向かう人や携帯で映画を見る人も。なんでもない、バルコの日常。でも確かにそれは、とても奇跡的なことなのかもしれない。
イドバタとコインランドリー
考えてみると、コインランドリーという空間はかなり不思議なものに思える。洗濯という個人的な活動を、名前も知らない他人と共有の場でする。会話するわけではなく、もちろん「一緒にやりましょう!」と声を掛け合うわけではなく、かすかに地域や他人とのつながりを意識する。どこか、銭湯のような、「緩やかなコミュニティ」的な空気がある。
バルコに携わってきた、先輩社員がこんな事を言っていたのを思い出した。
「昔は、地域の水場に集まって洗濯していたわけで、『井戸端会議』、っていう言葉があるけど、まさにその時代はコミュニティの中心だった。次の人がきれいに使えるように意識して、みんなで井戸端を維持していた。『井戸端会議』をするかどうかは別として、コインランドリーも井戸端と同じ、人が集まって洗濯して、なんとなく人との繋がりを意識する場。だから情緒があるし、面白いんだよ」
前向きな気持ち
週5日、ほぼ毎日コインランドリーのことを考える仕事をしてきて、全国でかなりの数のコインランドリーを見てきた。バルコに限らず、まさに地域の拠点となっているコインランドリーもあるし、荒んでしまったお店もたくさんある。その中でバルコは、地域にとってどんな存在になれるだろうか。
全国で200店舗。至らない点も改善点もまだまだ沢山あるが、「気持ちよく使えるように」という思 いを込めて作った店舗。バルコは、使ってくださる人の”前向きな気持ち”が生まれる場でありたいと強く思う。もちろん、「洗濯してすっきりした」、「家事が捗った」という気持ちを生むために、コインランドリーとしての機能をしっかり維持していきたい。それからバルコに携わる人、バルコを使ってくれている人の物語を発信していくことで、何か別の、少しだけ前向きな気持ちも、生み出せるかもしれない。
そんなことを思いながら、土曜の午前中に代々木上原店でこの記事を書いていると、ランドリーバックに一杯の洗濯物を抱えた小さな男の子とお父さん。洗濯機のボタンは、お父さんに抱えられた「ぼく」が押す。きっと毎週、ランドリーでお母さんのお手伝いをしているのかな、と想像してしまう。
こんなバルコの日常を少しずつ切り取って、記事にできたなら。
代々木上原店で宿題をする、お母さんと娘さんの話をしてくれた石丸さんの町に、2023年5月、バルコがオープンした。町役場と同じ建物に、ランドリーとカフェとフィットネスジムが併設する店舗ができるのだ。
小清水町の子どもたちは、バルコで「お手伝い」をしてくれるだろうか。
その話はまた、「今日もバルコで」で